次は「団地」を例に挙げてみましょう。団地は昔のつくりの建物が多く、エレベーターのない建物が多く、エレベーターのない5階建てのものがほとんどです。マンション同様、所有しているだけで管理費・修繕積立金の支払いが発生することがもちろんですが、最近この団地の3~5階部分の売れ行きが極端に悪くなっています。それは、高齢者の方にとっては階段がきつく、子育て世帯の方にとってはベビーカーの持ち運びができないという利便性の悪さが原因です。さらにエレベーター付きのマンション価格が供給過多により下落しているため、わざわざエレベーターがない団地を購入する必要がなくなってしまったからでもあります。
また「農地」については、「農地法」という厳しい規制の中で、所有権などを取得できる人や用途変更(地目変更など)をできる人が限定されてしまうなどの問題があります(「農業振興地域」という転用ができない農地は、農家の人か農業法人でないと購入・利用することができません)。
「再建築不可物件」では、売却をしようとしても金融機関の担保評価がつかず、融資の利用ができないケースがほとんどです。また売りづらい(換金性が乏しい)物件にもかかわらず、固定資産税の負担が大きくなる傾向にあるのもこの物件の特徴です。
「借地」の場合はどうでしょうか。借地は、土地を地主から借りて使っている権利を有する土地のことで、毎月の地代の他に、建て替えや売却時にもまとまった金額を地主に支払う必要があります。この借地は、人気エリアであれば高い金額で売却できるためいいのですが、道が細く車が入れない借地や、坂の上にあるような条件的に厳しい借地はまず手放すことが難しく、地代だけを支払いつづけているという話もお聞きします。また借地を地主に返地する場合、基本的には建物を解体し更地にしてから返す必要があり、その際には建物の解体費用についてかなりの費用がかかってしまいます。
他にも「別荘地」は、所有しているだけで固定資産税とは別に「別荘管理費」が徴収されているケースが多く、放置された結果、雑木林になってしまっている土地も増えています(雑木林は樹木の伐採だけでも数十万かかります)。
以前、当社で群馬県吾妻郡嬬恋村の別荘地に、100坪以上の土地を所有していたことがありました。ある日その土地を100円で販売してみたのですが、お客様からの問い合わせはほとんどなく、インターネットのアクセス数もほぼゼロに等しい数字だったことがあります。たったの100円でも市場の反応がこれほどまでに少ないのには、正直驚かされました。それだけ市場は冷え込んでいるということでしょう。
また「崖地」の場合は、地震や大雨、強風時に土砂崩れを起こし、近隣住民に多大な損害を与える可能性がある他、市街化区域内に所在する崖地については、非常に高い固定資産税がかかってしまうケースも少なくありません。
さらに「老巧化したアパート」は、築年数とともに家賃が安くなり、修繕費用もかかるようになります。それらの大部分は建て替えをしようにも借家人がいるためにできず、退去してもらおうとしても立ち退き費用が高額となるなど、四苦八苦していることが多数見受けられます。
「市街調整区域に所在する分家住宅」でも、負動産になってしまうケースが多発しています。市街化調整区域とは、市街化を抑制する地域であり、原則として建物の建築ができない区域となります。また分家住宅とは、農家の分家の方が許可を受け、建築した建物のことで何の手続きもせずに第三者に売却や賃貸をしてしまうと、行政より建物の使用を禁止されてしまう物件です。そのため、売却などには所定の手続きを行う必要があるのですが、売主と買主の双方の事情や背景も審査対象となるため、すんなり許可が下りるとは限りません。そのため、負動産になってしまうようです。
繰り返しになりますが「負動産」は「所有するだけでランニングコストがかかる上に、売却・活用しづらい問題をはらんでいる不動産」を指します。
不動産の価格は需給バランスによって決まります。人口が増加傾向にあった昔は、住宅需要も多く、多少の難あり物件でも一定の金額で流通してはいましたが、住宅飽和状態の現在においてはそういった難あり物件を好んで購入する方はいなくなり、結局「売れない・売りづらい・貸せない・貸しづらい物件」となってしまいました。つまり「負動産」は時代が作った副産物物と言えるのです。この負動産を所有する最大のデメリットは前述の通り「ランニングコストがかかる」点です。「不動産を所有したい」という願望をかなえることはできますが、他には何一つとしてプラスになることはありません。
皆さんはこのような負動産を所有したいと思いますか?
私はいりません。
それは皆さんも、そして相続人の方も同じでしょう。
ただ負動産でも物件によっては、何かしら手を加えてあげることにより「負動産」を「富動産」に変えることもできるのです。「負動産」を「富動産」に変えるためには、また、「負動産」を売却・処分するためには、そのノウハウを知っていることに尽きます。
さて次章から、私が今までに「負動産」を「処分」するのではなく、「富動産」に変えてきた方法について、事例を交えてご説明したいと思います。
田中 裕治(一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事)