売れない物件とは?(1) それを持っていることのデメリット

昨今ニュースを見ていると、人口減少や少子高齢化という言葉を耳にする機会が多くあります。実際に街中を歩いていても、明らかに若者が減ってしまったような気がしてなりません。

人気がある地域に人は集中し、そうでもない地域には昼間にもかかわらず道路を歩いている人すら見かけない状況になって、特に私は仕事で北は北海道、南は沖縄県まで、さらに現在も四国や九州などの案件を扱っているため、街を見る機会は多く、元気のある街とそうでもない街をはっきりと認識することができます。

そして、この人口減少や少子高齢化の次に来る問題として挙げられるのは、空き家の問題です。

平成27年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、空き家がさらに注目されることとなりました。平成25年の段階で空き家は全国に820万戸あり、それが毎年増加傾向にあるというのですから、政府も黙って見ているわけにはいきません。この法律の施行により、行政に「特定空家」として認定されてしまうと、空き家を除去・修繕・立木竹の伐採などの指導・勧告・命令される場合があり、さらに最悪の場合には行政による強制執行(建物の除去など)ができるようになりました。そうなってしまった場合、家屋の取り壊し費用は、行政ではなくあくまで所有者の負担となってしまったのです。

また、特定空家と認定されて放置していると、土地の固定資産税の軽減措置が受けられなくなり、固定資産税が6倍に増額されてしまう場合もあります。

一体なぜなのでしょうか。固定資産税には建物がある土地に対して税金の負担を減らすための軽減措置が設けられています。しかし、ひとたび建物がなくなると、この軽減措置が受けられなくなり、それに伴い固定資産税が上がってしまうことになるからです。つまり、ランニングコストを減らすために、空き家で所有しつづけている人が増えているということです。 

私が不動産コンサルタントとして業務にあたる際にも、こういった空き家について多くのご相談をいただいております。しかも都市部のような人口の多い地域ではなく、人口が少ない田舎の空き家についてのご相談です。

大半は「相続で実家を取得したのですが誰も住まなくなってしまい、毎年、固定資産税や草刈り費用というランニングコストだけかかってしまっているので、何とかしたい」という内容のものです。このいわば「金食い虫」的な不動産のことを、最近は「負動産」と言うようになりました。

バブル期のように、土地神話として不動産がもてはやさていた時代は、もう二度と来ることはないでしょう。これからはこの「負動産」をいかに早く手放すことができるかどうかが重要になります。言い換えると、トランプのババ抜きのようなものです。

負動産は持っているだけで、多額の維持管理費用がかかります。負動産をメンテナンスせずに放置しておくと、景観を損ねたり、不審者が占有したり、ごみが放置されたり、不審火の危険性など気が気ではありません。まさに百害一利なしです。きっと近隣住民の方も同じ気持ちでしょう。

他にも、毎年夏になると管理している土地の近隣住民より「草が伸びて虫がすごいので除草してほしい」などの苦情も入ることがあります。つまり、不動産は所有しているだけで、所有者責任が発生してしまうものなのです。

この負動産は捨てることができず、第三者に売却するか、あるいは贈与しなければ代々相続していかなければなりません。なぜなら相続の手続きではこの負動産だけ放棄し、預貯金や株式などの資産だけを相続することは法律上できないからです。

この場合の対処法として考えられるのは、

・一定の期間内に負動産(負債)と一緒に預貯金などの資産についても相続放棄する、
・もしくは相続人全員で限定承認をするという2つの方法があります。

限定承認とは、相続後遺産を清算し、資産が負債を上回った場合に、相続人でその資産を分配するというものです。仮に相続資産を清算した後に負債が多かったときには、負債は相続しなくても良くなります。ただし、資産と負債のどちらが多いのかわからない段階で、多額の費用をかけて限定承認をされるというケースは少ないようです。残念なことに一般的な負動産の価値は、実際に売れる金額より、相続税評価額のほうが高い傾向にあり、その点からも金食い虫と言えます。(続く)

田中 裕治(一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事)