1 タダでも売れない不動産
当社では、現在数多くの地方にある案件を手掛けておりますが、次に挙げる栃木県須塩原市の土地は、まさに当社が地方を手掛けるきっかけとなった案件です。
お客様(Iさん)は、バブル時代にご自身で別荘ライフを楽しむためにと、1000万円で栃木県那須塩原市の別荘地内の土地100坪を購入されました。非常に残念なのですが、昔は「この土地は将来絶対値上がりします」と言って土地を売却する「原野商法」いう手法で、不動産を売却していた会社が多数存在していました。Iさんも同様の手口でこの別荘地を購入させられた一人でした。最近では、この原野商法の二次被害者も出てきてしまっているようで、二次被害とは土地活用の管理会社などの名乗る業者から「昔買った別荘地を売りませんか」や「欲しい人がいる」などと連絡が来て「広告を掲載すれば、半年以内に必ず土地は売れる」と言って広告料などをだまし取る手口の被害です。他にも「測量をすれば売却できる」や「広告料を支払えば売れる」などという手口もあるようです。私のお客様でも実際に原野商法の二次被害に遭ってしまった方がいらっしゃいました(そして、なかなか売れないため、私にご相談をいただきました)。
別荘地だけでなく、どのようなことでもそうですが、うまい話はないのです。
Iさんはご家族の通勤や通学の関係で、購入した別荘地に建物を建てるわけでもなく、20年以上も別荘地の管理費などや草刈り代、固定資産税を支払いつづけていました。その額200万円以上だから驚きです。
そして、現地に行くこともほとんどなく、土地をいざ売却しようと思っても、地元の不動産会社からは「雑木林となってしまった土地は、木を切るだけでも数十万円かかります。伐採費用や管理費を支払ってまで土地を所有したいという人は、このご時世いません。この別荘地では皆さんタダでもいいから引き取ってほしいと言っているぐらいですよ」と言われたそうです。
そこで私にご相談をいただきました。まずは、本当に不動産自体が流通していないのかを不動産会社専用のサイト(通称「レインズ」)やその他のサイトで調べたのですが、確かに過去この場所での取引事例は登録されていませんでした(成約事例が登録されていない=不動産の流通がないということではありません)。
現地は、緑豊かな懐かしい感じが漂う土地で、温泉の引き込みも可能でした。私は市役所などで、物件の法令上の制限などを調査しました。続いて管理会社に問い合わせをしたところ、やはり担当者からは「雑木林のような土地ではタダでも引き取り手がいません」と言われてしまいました。他にも、東北の震災以降、放射能の問題(ホットスポットと呼ばれるようになっていました)により、那須塩原市では不動産の流通自体が大幅に減少してしまいました。(続く)
田中 裕治(一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事)